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最高裁判所第二小法廷 平成8年(行ツ)138号 判決 1998年6月12日

上告人

東京山手青果株式会社

右代表者代表取締役

藤田幸広

右訴訟代理人弁護士

山田有宏

丸山俊子

松本修

伊東眞

被上告人

新宿税務署長

河合義男

右指定代理人

山岡徳光

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山田有宏、同丸山俊子、同松本修、同伊東眞の上告理由第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第一点について

原審の適法に確定したところによれば、上告人は、退職した役員に対する退職給与の支給として、上告人の固定資産である土地をその帳簿価額である二五〇〇万円で譲渡し、右譲渡に係る事業年度の確定した決算においてその旨の経理をしたが、右土地の右譲渡時における適正な価額は少なくとも一億六〇五三万四三六〇円を下るものではなかったというのであるから、右事実関係の下においては、右土地の譲渡時における右適正な価額と右帳簿価額との差額は法人税法三六条にいう損金経理をしなかった金額に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官根岸重治 裁判官大西勝也 裁判官河合伸一 裁判官福田博)

上告代理人山田有宏、同丸山俊子、同松本修、同伊東眞の上告理由

第一点 原判決は、法人税法第三六条の解釈を誤っており、かつこの誤りは、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背である。

一 原判決は、法人税法第三六条にいう損金経理とは、法人がその確定した決算において費用または損失として経理することをいうものであって、確定した決算において損金の額に算入されていない金額はここにいう損金経理をしたものといえないから、法人の土地を帳簿価格で現物支給したことにより、その土地の時価と帳簿価格との差額に相当する金額についてまで損金経理が行われたものと解することはできない、と判示する。

しかし、右判示の解釈は、現金をもって退職役員に供与した場合には、当てはまるものの、現物をもって供与した場合には妥当しないのであって、原判決のいう解釈は、明らかに誤りである。

二 すなわち、退職した法人の役員に対し支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において損金経理をしなかった金額は損金の額に算入しない、とする右法人税法三六条の定めは、役員の法人から受ける利益のうち損金の額に算入される狭義の報酬部分と利益処分とされる賞与にあたる部分を区分する必要があり、役員に対し支給された利益のうち明確に損金経理をしたものは、その法人においてこれを賞与とせず損金とする意思決定が明確であるが故に損金と認めたものであった。

三 このような法人税法三六条の趣旨からすると、その役員の受けた利益が、現金であれば損金経理された金額をもって、その法人が、賞与としないとの意思決定を行ったことが判明するが、その利益が、不動産などの現物支給であった場合は、その支給された利益が特定されることにより、その法人の意思決定が明らかになるのであって、その経理された評価額そのものは、意味を持たない。

四 つまり、明白に法人の資産として経理されている固定資産が報酬として損金経理された上で現物支給されたことに争いがなく、単にその時価評価の金額に見解の相違があるような事例では、当該資産のすべてが報酬として支給されたことが明白であるから、この損金経理された金額と時価との差額のうちに賞与相当額の混在する余地はまったくありえないこととなり、右の立法趣旨からみて、その経理された資産金額と時価との差額につき、損金算入がなされていない、と判断するのは誤りであり、この資産の時価がいくらであろうとも、全額損金経理されたものとして取り扱うべきである。すなわち、当該法人が、この資産の評価額がいくらであろうとも、その資産のすべてを報酬として支給する意思決定が明白であるからであり、その内に賞与額を含むとの意思決定が存在しなかったからである。

したがって役員の退職給与が資産の無償譲渡をもってなされた場合、経理された金額がこの資産の簿価のみとし、時価との差額を損金未経理として取り扱うのは当然に誤りである。

五 本件の場合、上告人が藤田に支給したのは、本件土地建物の全部であり、もし上告人の経理した金額すなわち簿価と時価とに差額があったとしても、この資産全部を退職金として支給する意思に変わりがなかったのであるから、損金経理した簿価と時価とのあいだに差額が存在したとしてもこれが損金未経理として取り扱うのは法人税法三六条の解釈を誤ったものというべきである。

六 実際にも、このような資産の評価額の相違により損金経理をなし得なかった金額が発生する現象は、法人税法にも第三六条以外にもしばしば起こり得るものであるが、これらについては、いずれも国税当局も不当な課税となることを認め、通達により解決を図っている。

その一は、法人が、国等に対する寄付金、指定寄付金及び試験研究法人に対する寄付金を金銭以外の資産をもって寄付金を支出した場合である。

この場合、法人税法第三七条三項により当該資産の時価相当額を寄付金として損金算入の特例が認められているところ、その損金算入は確定申告書に寄付金の額を記載し、かつその明細書を添付することが要件とされている。

したがって、もし資産の寄付も金銭の寄付と同様確定申告書に記載しなければ損金算入を認めないとの見解を採るならば、その法人の寄付した資産の価額が低額に過ぎ、時価との間に乖離が生じていた場合、その差額について(当該資産がすでにその法人に残存していないにもかかわらず)損金算入の特例が適用されないおそれがある。

むろんこのような結果は不合理極まりないため、国税当局も法人税基本通達九―四―八をもって、かかる資産の評価額の相違の結果損金算入しえなかった差額についても損金算入の特例を認むべきであるとした(甲二三)。しかも、この通達は、寄付した資産の額をその資産の帳簿価額で計算し損金算入した場合でも、その価額と時価相当額との差額についても損金算入の特例を認めるべきであるとしている。

その二は、法人が、減価償却資産についての償却費を損金算入するためには、法人税法第三一条一項により償却費として損金経理をした金額で償却限度額に達するまでの額であることを要件としている。

このため、例えば当該償却資産が無償ないし低額にて取得したため、後日その評価額と時価に差額が生ずる場合、当然損金経理し得なかった償却費が発生することになる。

またこのような資産につき除却損または評価損を計上する場合にも同様に損金に算入し得なかった除却損ないし評価損を生ずることになる。

このような場合、単に損金経理をしていないとの理由のみで損金算入を否定することは極めて不合理な結果をもたらすため、国税当局も法人税基本通達七―五―一をもって、かかる資産の評価額の相違の結果償却費として損金算入しえなかった償却費、除却損、評価損等についても損金算入を認むべきであるとした(甲二四)。

七 このように、その判定が区々まちまちとなる資産の時価評価の相違が原因で損金経理をなしえない損金が生じた場合は、金銭のそれと同様に法を解釈することに誤りがあるのであって、要はその法人が、経理しようとした資産の内容と範囲の意思決定が、明確に記帳されていれば足る、とするのが法人税法の正しい解釈である。

八 よって、この原判決のいう法人税法三六条の損金経理の解釈は、同条の立法趣旨からいって、明らかに誤りであり、この点に関する原判決の判示は、法律の解釈を誤った違法があるところ、本件土地建物の「時価」と簿価の差額は、全額損金経理されたものとするならば、所得金額は全額減算され、本件更正処分の根拠となる課税所得は、存在しないこととなり、本件更正処分は、この限度で理由がないこととなるから、この法令違背は、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

第二点 <省略>

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